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文藝春秋 神戸連続児童殺傷 少年Aの家裁審判「決定(判決)」全文を読んで

4月10日発売の「文藝春秋5月号」に掲載された「少年A神戸連続児童殺傷 家裁審判『決定(判決)』全文」を読みました。

長いので、立ち読みではなくきちんと買って読みました(笑)。今日はこの「文藝春秋」を読んだ感想を書こうと思います。

この「家裁審判の決定」については、少年Aに医療少年院送致が決定された平成9年に部分的には公表されており、大きく報道もされていました。

ですから、今回の「文藝春秋」を読む前にすでに知っている部分(犯行経緯、「バモイドオキ神」うんぬんの手記、少年Aの非行事例など)も多くありましたが、少年Aの周囲、とりわけ幼稚園や小学校中学校の教師が当時少年に対して持っていた印象や、犯行の前兆と考えられる問題行動の数々などは、この事件の背景を知る上での新たな情報として、とても貴重だと感じました。

 発達障害と事件の前兆

本文を読んでまず気になったのは、所々に母親の厳しいしつけがクローズアップされていることです。確かに、母親は長男であるAに対して厳しく接したり過干渉になっている部分があったようですが、だからといって、それがきっかけで少年の心に異常性が芽生えてしまったと決めつけてしまうのは少し乱暴だと思います。

この家裁決定を読んでいると、あたかも少年Aの犯行の原点には母親の間違った育児があるのだと感じさせられる箇所が多々あるのですが、そうやって「悪いのは親だ」と結論づけることで、無理やり事件に幕を引いているのではないかという気持ちもしました。

たとえば、「少年は母乳で育ったが生後10カ月で離乳が敢行された、1才までの母子一体の時期に母親が最低限の満足を少年に与えていなかった疑いがある」などと書かれてあり、そうしたことが、のちに少年が親に対して甘えられなくなった原因になったのではないかと推察されている部分があるのですが、離乳半年後に弟が誕生している事を考えると、母親が妊娠中であるために早目に断乳をしたのではないかと(授乳は子宮の収縮を促すので、妊娠中では流産や早産を引き起こす場合があります。)普通に推測ができるところを、何か重大な過ちをしたかのように書かれているのが不思議でした。

また、下の子がいれば、ある程度上の子は親に厳しくしつけられることもありますし、男兄弟の一番上で、普段から「弟いじめ」をよくしていたということですから、日頃母親から強く叱られることがあってもおかしくはないと思うのですが、そうした叱り方が少年の心を歪ませたという風に、鑑定人は推察したようです。

両親は、長男は我慢が大切で下の者と争った責任を取らねばならないとの考えであったから、母親が中心となって少年には厳しく叱責を続けた。口で何回も注意して聞かない時にはお尻を叩くという体罰を加えた。体罰と言っても、社会常識を逸脱するような程度のものではなかったが、少年は親の叱責がとても恐ろしく、泣いて見せると親の怒りが収まるのを知って、悲しいという感情がないのに、先回りして泣いて逃げる方法を会得した。 『文藝春秋 2015年5月号』 P320より

こうしたエピソードも、兄弟のある家ならよくあることで、特別ひどいしつけを受けていたようには感じません。

ただ、注目すべきなのは、少年が必要以上に親の叱責を恐れていたという点であり、そこには後に病院で診断される「発達障害」によって、目に見えるものや音に対しての極度な「過敏性」が、少年の心に強く影響しているのではないかと感じます。

先回りして泣けば母親が叱責をやめてくれるからと「逃げる方法」を会得した背景には、それほど少年は親に叱られることが恐ろしく、なんとかして逃れたかったということが分かります。

そんなに怖いなら叱られないように行動すれば良いものを、それができないから叱られてしまう。そして恐ろしさで心の中が屈折していく。

ここで気がつかなければいけないのは、親の叱責うんぬんではなく、少年Aが母親に叱責された時に見せていた行動、そして心の動き、すなわち「発達障害」によって頭の整理が通常のように行なえず、混乱してパニックになっているということです。

小学5年生で同居していた祖母を亡くした頃から、少年はナメクジやカエルの解剖を始めます。

この「解剖」行為は少年の性の目覚めと結びついているので、祖母を亡くしたショックが生き物への虐待行為に繋がったのか、ただタイミング的に性衝動の始まりと祖母の死が同時期だったのかは分かりません。

しかし、この5年生から6年生にかけての1年間に、空想上の遊び友達「エグリちゃん」が心の中に誕生し、夢には守護神「バモイドオキ神」があらわれます。また、ヒットラーの「我が闘争」を読んで心酔し、「この世は劣るものは死に、優秀なものは支配するという争いの世界である」という認識を持ったといいます。

小学6年生になると徐々に問題行動の幅が広がり、カエルの解剖は猫殺しへ、また、子供に向けてエアガンを撃つ遊びも始めます。同級生を殴った事が問題となり、教師に連れられ同級生宅へ行き、泣きながら謝罪をすることもあったようです。

「このままでは人を殺してしまいそうや。お母ちゃんに泣かれるのが一番つらい。お母ちゃんは僕のことを変わっていると思っている。」文藝春秋5月号P323より

少年は中学1年生で「発達障害」と診断されます。しかし、有効な療育は受けていなかったようです。

この時期から、万引きや他者への暴力など、さまざまな問題行動で親が学校や警察に呼び出される事も多くなっていったようです。 殺人のイメージで自慰行為を行い、人を殺す事への興味が日増しに膨らんでいく少年。人の殺し方を知るためにホラービデオを見るようになり、授業中でも殺人の場面が生々しく白昼夢としてあらわれ、学習意欲も低下する。徐々に友達とも疎遠になり、1人で過ごす時間が増え、殺人妄想に苛まれる日々。

事件前の少年の精神状態を細かく知ると、昨年の佐世保市で起きた女子高生の同級生殺害、また、名古屋の女子学生が自宅に高齢女性を招きいれ殺害した事件などが、どうしても脳裏をよぎります。

こうした少年事件について、「こうすれば防げた」という明快な答えは見つからないものの、どの場合にもある程度共通して感じるのは、さまざまな問題行動を起こす子供に対して、親が「匙を投げた」末に、起こっている事件なのじゃないかということです。

今回の少年Aの両親にしても、なにも放ったらかしにしていたわけではないのです。

家裁審判「決定」を読んで見ると、問題行動が顕著となってきた小学高学年以降、なんとか少年を更生させようと、彼らなりに出来る事を一生懸命取り組んでいたことは窺えます。

でも、ある時期から母は息子の考えている事が分からなくなり、その後、平成9年5月13日に少年が同級生に殴る蹴るの暴行を加えた事がきっかけで、「父親も少年の気持ちが分からなくなり、少年の明日から学校を休みたいという希望を両親は受け入れ」てしまいます。

バモイドオキ神様、僕は今現在14歳です。もうそろそろ聖名をいただくための聖なる儀式、「アングリ」を行なう決意をせねばなりません。(中略)「アングリ」を遂行する第一段階として、学校を休む事を決めました。いきなり休んではあやしまれるので、まず自分なりに筋書きを考えてみました。その筋書きとはこうです。『文藝春秋』5月号P332より

結局、神戸連続児童殺傷事件とは何だったのか。

この「文藝春秋」を読んで、すっきりと答えが見出せたということはありませんが、少年が犯行に至るまでの精神的な錯乱が明らかとなり、こうした殺人願望を持ち、実際にそれを決行してしまった少年少女達の気持ちもこうしたものだったのだろうかと、考えさせられることは大きかったです。

ただ、少年の犯行の原点に両親の養育方針があったということを示唆しているような記述が多かったことは、この事件の真の解決を拒んでいるようにも感じました。

少年は自身の作文「まかいの大まおう」の中で、母親を「お母さんは、えんま大王でも手が出せない、まかいの大ま王です」と書いており、そういったことを参考にして、母親の厳しいしつけが少年の心を追いつめていたという鑑定がなされたようです。しかし、実際に母親が行なっていた育児を他者が客観的に見た時に、どれほど厳しかったのか。本当に子供が「まかいの大ま王」と感じるほどの恐怖があったのか。その辺は、かなり慎重に考える必要があると思います。

少年Aにとっての「厳しさ」を、通常のものと同程度に考えてしまうと、彼の本質を見誤ることにもなりかねないのではないかと感じました。

今回、「文藝春秋」が家裁決定全文を掲載したことには賛否があると思います。しかし、少年審判の決定全文を公表することに問題があるかどうかは別として、たとえば我が子や教え子、親戚など、身近な子供がここに書かれている内容と同じような傾向を持っていたり、普通では理解できないような子供の問題行動で悩んでいる親や教師などが、これを読むことで問題意識が芽生え、子供のための治療や療育を始めるきっかけにもなり得るのではないでしょうか。

子供の罪はすべて「親」に責任があるのだと、決めつけてしまうことは簡単です。でも実際、親でもどうにもならないことがありますし、特に「発達障害」などで、生まれつき脳に異常がある時には、常識的な事を教えようとすることが逆効果になり、攻撃性を目覚めさせる結果に繋がることもあるのです。

今回の「家裁決定」全文公開は、そういった少年事件の問題を社会に知らせるためにも、良い機会になるのではないかと私は思ってます。

本文には、少年Aの成育歴から幼稚園、小学校、中学校での素行、学校側からの少年に対する印象、生い立ちから事件に至るまで、また逮捕後の取り調べでいかにして供述を始めたか、どのような心境で医療少年院に送致されたのかを細かく知る事ができます。